ウォーム減速機の選定手順!カタログに載っていない3つの選定ポイント

世の中にウォーム減速機はたくさんありますが、減速機の特徴を理解し、自分の条件に見合った選定ができている設計者は多くありません。それは、カタログの選定手順以外に抑えておきたいポイントが潜んでいるからです。今回は筆者の経験をもとにした選定ポイントを解説します。






 

ウォーム減速機選定で設計者がハマりやすい落とし穴とは?

ウォーム減速機は、様々な用途で利用されています。形状の種類も様々あります。

出典:ベルポニー

 

どのメーカもカタログを見れば選定フローが記載されていると思いますので、実際に選定する際にはそちらを参考にして下さい。ですが、今回は、その選定フロー以外に考慮すべき注意点についていくつかご紹介しようと思います。それではさっそく行きます。

 

減速機を使う目的は、モータの動力源をさらに大きなトルクに変換し、重量物を動かすことが主な理由の1つだと思います。いわゆる、「トルクの増幅」ですね。また、回転数を落としたいという目的でも使用されるケースもありますよね。

 

ここで、減速機を選定する上で、設計者が押さえるべきポイントはどこなのかというと、次の項目が考えられます。

・その減速機で必要なトルクが出せるのか
・減速機のベアリングの寿命は大丈夫か
・熱膨張は許容値内なのか
・シャフトのオーバーハング量は許容値内か
※これらはメーカカタログ選定フローからの抜粋

 

減速機を選定する場合、トルク云々の計算はみなさん当然行うと思います。しかしながら、重要なことは、これから選定する減速機が実際に実機に取り付けたあとにトラブルが生じないかの”見極め”だったりします。

 

上記は、基本的な設計基準となりますが、さらに重要なことは次の3点だと考えられます。

・位置決め精度
・減速機内(ウォーム)ギアの接触面摩耗度合
・セルフロック対策

 





 

■位置決め精度

”位置決め精度”は、減速機を選ぶ上でまず見ておくべき項目ですが、ここでミスジャッジすると、減速機選定を最初から見直すことになります。特に、バックラッシの分類を見ておく必要があるかと思います。

 

はじめに装置としての仕様決め、すなわち、どの程度のガタを許容できるのか、停止させたい物体の位置決め精度がどのくらい必要なのかを整理しておく必要があります。その精度は装置によっていろいろあると思いますので具体例は示しませんが、それを最終的には角度として把握しておきましょう。

 

その仕様が明確になれば、あとはウォーム減速機のカタログを見比べるだけですね。角度は秒や分といった単位で書かれている場合がありますので、下記のような角度換算をエクセルなどで作成しておくと便利だと思います。

 





 

■減速機内ギアの接触面摩耗度合

”減速機内のギア接触面の摩耗”については、とても難しい問題です。摩耗の進行は経年変化や使用条件によって変わってしまいますが、トラブル現象としては、逆戻し(すべり)現象が起きたり、部品の破損に繋がる場合があります。

 

そういったトラブルを回避するためには、まず設計段階で減速機内のギアの動きに着目すべきだと考えます。ギアが360度回転する動きなのか、それとも90度ぐらいを往復するのか、はたまた微小角を繰り返す動きなのかというものです。

 

一番ギアの磨耗が激しいのは、言うまでも無く”微小角の繰り返し運動”になりますので、もしそのような使い方をされるのであれば、最初からメーカとの打合せでその動きを説明し十分に打合せを行なうことです。

 

また、打合せやメーカの言葉だけではどうしても安心感が得られないケースもあると思います。その時は、自社内で検証するしか方法がありません。ただ、自社内で十分な検証時間があれば良いのですが、大抵の場合そんな時間はありません。新規減速機を採用する場合、これら寿命に関してどのような判断をするのかは各担当者の判断に委ねられます。ましてや歯面強度などのカタログスペックは一見同じに見えても実際に同じ強度なのかはわからないケースがほとんどです。

 

そこで短期間で結果を出す手段の1つとして、加速試験というものがあります。実際に私も行なったことがあります。

 

加速試験とは負荷条件を通常の2倍、3倍に設定し、時間軸を縮めて効果を確認する試験です。加速試験であれば、通常1年かかるものを条件によっては3ヶ月程度でわかります。

 

ただそれでも3ヶ月はかかってしまうので、現実的な対応として、私が実践していることは以下となります。

・自社内選定計算およびメーカへの選定結果確認
・製品への投入と同時に加速試験の実施
・メーカ保証の範囲と期間および対応の確認
・取付互換性のある第2案減速機の選定

 

実際に磨耗問題はすぐには発生せず、数年経過した後に起こる症状がほとんどです。すぐに出る場合には、負荷計算そのものが間違っている可能性が大です。(こちらは論外)なので、トラブル対応を前提にメーカと話を進める策が有力だと思われます。

 





 

■セルフロック対策

”セルフロック対策”は私の経験上、もっとも押さえておきたいことだと思います。ウォーム減速機の場合、高効率になればなるほどセルフロックは効きません。高効率の減速機はウォームの歯面の角度が寝てくる(リードが長くなる)ため、構造上滑りやすくなるためです。これはメーカに確認済みです。

 

セルフロックが効くためのウォームのリード角は、一般的に4°以下となります。高効率は一般的にリード角が5°以上となっています。もし、減速機でセルフロックを効かせたいのであれば、リード角を4°以下の製品を選定することが前提となりますので、頭に入れておくと良いでしょう。

 

この時点で高効率モデルを選んでしまうとセルフロックが効かないので、自前でブレーキをつけるしかなくなります。セルフロックが欲しいか、必要でないかはウォーム減速機を選定する上で最初の判断になりますので、ここを間違えないようにしましょう。

 

以上がウォーム減速機選定の全体の流れとカタログには載っていない注意点3つとなります。これから選定を考えている人は、参考にして頂けたらと思います。

 





 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

福井県生まれ。地元工業大学大学院修士課程を卒業。大学卒業後は、工作機械メーカーの開発部に配属になり、10年間、設計、組立、加工、基礎評価、検査について携わり、その経験をもとにしたメカ設計のツボWEBサイトを立ち上げ。

現在は転職し、衛星、医療、産業機械、繊維機械など多くの設計に携わって、機械設計のノウハウを皆様に役立ててもらう情報発信メディアの構築を行っています。

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次