図面の中に表記される括弧寸法ですが、みなさんどのようにお使いですか?何を今更と思われる方は良いのですが、ちょっと使い方が不安と思っている方は、この記事を機におさらいをしてみましょう。私の主観たっぷりのコンテンツをぜひご覧下さい。
目次
参考書には載っていない寸法記入の正しい入れ方とは?
図面の寸法記載は基本的な部分ですので、興味のない方はスルーしていただいて結構です。ただ、おさらいを兼ねて読んでみたいと思われる方はこのままお読みください。 図面寸法記入について細かな内容は、どこかの参考書や機械JIS便覧を見ればわかると思います。ここでは、細かな線一本一本の書き方ではなく、もっと抽象的な内容で、結局何を意識して描くのかという抽象度の高い部分について筆者の想いを書いていきます。 私は前職で工作機械メーカに10年務め、今は退社しています。工作機械メーカなので、図面の書き方は厳しかった記憶があります。今思うと、結局何が大切かというと、”作り手の立場に立つ”この言葉に尽きると思います。 図面の書き方には細かなルールがたくさんあり、それらを覚えることはとても大切なんですが、それよりも、”作り手の立場に立つ”この考えが一番大切だと思うのです。 加工図を書きたいなら、切削加工を知ること 板金図を書きたいなら、板金加工を知ること 製缶部品図を書きたいなら、溶接を知ること これらが図面を正しく書くための一番の近道だということです。 その後で、細かなルールを覚えていけばいいのです。 その時に、ルールの意味も理解できるようになるのです。 一般的に正面図に寸法を集中させますが、それはなぜでしょうか?”正面図に寸法を集中させる”というルールだけを覚えると、極力寸法を集中させてどうしても書ききれない寸法だけを側面図や上面図に分散させるといった図面になります。 果たしてそうでしょうか? 作り手の立場に立った場合、加工や製作に必要な寸法を間違いが起こらないようにできるだけ集中させるというルールであれば、例え寸法が分散してもそこには意味があるわけです。 ある部分の加工を行うとき、作り手が図面の右を見て、左を見て、上を見てとなると、注意が散漫してしまってミスを起こしやすくなりますよね。最低限どこか2面を見れば読み取れるような寸法の入れ方がベストだと思います。 こういった解釈ならば、”正面図に寸法を集中させる”というルールもすんなり理解できますし、わざわざ正面図ばかりにこだわる必要もなくなるわけです。 ルール通り寸法記入することだけでは作り手は喜びません。ルール通りじゃなくても、作り手の立場を理解した図面はルールに沿っていなくても読みやすい図面となるのです。 すなわち、自分が作り手の立場になって図面を見ることを念頭に置いて、寸法を入れていくということです。
括弧寸法の正しい使い方と意味とは?
『作り手の立場に立って図面を書く』ことの重要性をご理解いただけたでしょうか?ここで、もう1つ着目したいルールの中に括弧寸法というものがあります。括弧寸法とは、寸法のうち参考寸法を意味します。そこで、参考寸法についておさらいします。 作り手の立場に立った場合、書き手側はどういったことに注意すべきでしょう。それは、作り手にわざわざ計算をさせないことだったり、製作上、寸法の矛盾となる図面を書かないことです。 ”計算”とは、作り手にとって必要となる寸法の直接寸法が記載されておらず、周りの寸法から計算して間接的に必要寸法を導き出すことを指します。 また寸法の矛盾とは、正面図に記載されている寸法と側面図に記載されている寸法が違っているという意味の他に、一般公差や寸法公差、幾何公差が図示通り製作すると矛盾が生じるという意味もあります。 これはよくあることで、基準面を決めずに寸法入れした場合や、全体寸法を分割して寸法入れした場合に発生します。 ひとつ簡単な例でご紹介します。
この図をパッと見て違和感を感じない人は、寸法の矛盾に付いて理解していない、もしくは理解に乏しい人です。例では、幅900mmという平鋼に2ヶ所タップが立っています。300mmピッチで3ヶ所寸法が入っています。 作り手はこういった加工品を製作する場合、かならず基準面を設けます。 今回は、左側の面を基準面とします。 基準面について詳しく知りたい方は、こちらの記事を読んで下さい。 ⇒【機械図面】基準面を決めて寸法を引く理由 平鋼の幅900mmの一般公差は±0.5なので、実寸が899.5~900.5までならばOKとなります。今回は、実測で899.5だったとします。 次にタップの位置ですが、300mmの一般公差は±0.3です。加工誤差として、最大300.3まではOKということになります。 仮に1個目のタップと2個目のタップとも300.3になってしまったらどうでしょう。2個目のタップの位置は左の基準面から600.6の位置に加工されたことになります。必然的に右側面との距離は、899.5-600.6=298.9mmとなります。 一方で図中に記載されている寸法は300mmの一般公差、すなわち、299.7~300.3となっているため、ここで矛盾が生じているわけです。これは極端な例ですが、こういったことは図面を書いていて良くあります。 こういった寸法の矛盾をなくしてくれる役割が括弧寸法となります。括弧寸法はご存知の通り”参考寸法”ですので、例え寸法が記載されていても、その効力は薄いのです。先ほどの例で示した、299.7~300.3mmという公差範囲は無視して構わなくなります。いや~、とても便利ですね。 作り手にわざわざ計算させたくない、でも寸法を入れてしまうと重複や寸法の矛盾が発生してしまう、そんなときに括弧寸法をぜひ入れて下さい。
ここで1つの疑問が頭を過ぎる
寸法記入の一般原則の中には、以下の文面があります。 ・寸法は重複記入を避ける ・寸法のうち、参考寸法については、寸法数値に括弧を付ける これ、疑問に思った方も多いと思います。一方では、”記入しない”と言っていて、もう一方では括弧を付けて”記入する”と言っているのです。そもそも重複記入する場合は括弧を付けて表記しますよね。 一体どちらを守ればいいのですかね。・・・・ こういった場面になっても慌てないでください。冒頭に示した”作り手の立場に立つ”を念頭に置いていれば良いわけです。 重複記入を避ける理由はいくつかあると思いますが、例えば、このような理由が考えられます。 ・図面修正のとき同じ寸法がいくつもあると、修正漏れが発生する ・実際は同じ寸法なのに、謝って違う数値が入ってしまい不具合が起きる ・作り手のチェックに余計な時間がかかってしまう これは完全に主観になってしまいますが、私の場合は、極端に括弧寸法を増やすことはしませんが、2、3個程度なら入れてしまいます。パッと見、作り手の計算を省きたいという思いと、自分のチェック時にすぐにわかるようにしたいからです。 もし、検図の時、寸法記入のルールに背いていると言われても、間違った部品を製作しない、させないことを重視したと言い張ります(笑。ただ、私の主張も一貫性があり、作り手の立場に立っているという部分ではブレていないと判断しています。 括弧寸法に限らず、図面の寸法記入や表記の仕方で疑問に思うことがあると思います。私にご連絡いただければ、わかる範囲でお答えしようと思いますので、どしどしコメントください。 この記事が皆様のお役に立てると嬉しいです。最後まで読んで下さりありがとうございました。
コメント
コメント一覧 (2件)
初めまして、けいと申します。
現在図面の作成に際して参考寸法の知識を深めたいと思い、記事を拝見しました。
一点ご存知でしたらご教授いただきたいのですが、
溶接アッセンブリの図面にてコンポネント部品の寸法(ex. パイプ径、位置度をうたったワイヤ径、等)を記載することがあり、個人的な認識としては、「測定をしない寸法は参考寸法にする」ですが、参考寸法になっていない図面も散見されます。コンポネント部品の寸法は基本的には単品図で明記され、単品部品として測定されているはずですので、アッセンブリ状態で再度測定をする必要はないという認識です。
言葉だけで分かりづらいですが、筆者様のコメントいただけますと大変ありがたいです。
けい様
コメントくださり、ありがとうございます。
コメント頂きました内容の解釈が間違っているかもしれませんが、
返信させて頂きます。
>溶接アッセンブリの図面にてコンポネント部品の寸法(ex. パイプ径、位置度をうたったワイヤ径、等)を記載することがあり、
>個人的な認識としては、「測定をしない寸法は参考寸法にする」ですが、
>参考寸法になっていない図面も散見されます。
私の考えは、「製作業者がわかりやすく読み取ることができる図面書き」です。
なので、測定をしない寸法は参考寸法にするですが、そこが目的ではなく、
部品を取り付けて確認するために、参考寸法を括弧で載せる意味が強いです。
参考寸法になっていない図面も間違いではないです。
ただ、親切かどうかという意味では間違いを防ぐ意味で
必要のない参考もあえて記載することもありだと思います。
>コンポネント部品の寸法は基本的には単品図で明記され、単品部品として測定されているはずですので、
>アッセンブリ状態で再度測定をする必要はないという認識です。
けい様のおっしゃられる通りですが、
アセンブリ状態でそのもの単体の寸法が重要ではなく、
組付けられた後の外寸だったり、取り付け精度などは確認が必要だと思います。
よろしくお願いします。