構造体の固有値と回転体の周波数が共振しない設計方法とは?

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機械設計をする上で必ず誰しも一度は耳にする言葉、それが共振です。機械装置にとって共振は避けたいもので、共振が大きければ騒音や部品の破損などに繋がります。周波数帯域にもよりますが、今回は低周波数帯域でのお話となります。

共振とは?おさらい

共振という言葉を聞いたことがない方に向けて簡単におさらいです。共振とは書いて字のごとく、振動と振動が共にいるってことで、共にいると振動が増幅され揺れが大きくなる現象のことです。
 
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振動が増幅されるとは、振動は波のような揺れを意味しますので、揺れが大きくなることを意味します。そして最終的に、振動が大きくなることで音が大きくなったり、揺れが大きいことで部品に振動が伝わり最悪部品が破損するといった事象に至ります。共振はないことが望ましく、仮にあったとしても最小レベルに抑える必要があるわけです。
 

また、共振は揺れなので周波数[Hz]として表されます。周波数は低いものから高いものまで帯域の幅があります。装置の振動対策にとってこの周波数帯域はすごく大事で、100Hz以下の共振なのか、1000Hzぐらいの共振なのか、帯域によって対策が違ってきます。
 

共振を見つける

まずは共振を見つけることからはじまります。共振は次の3つのアプローチから見つけることができます。
 

Step1:実機に計測器を付けて測定する

共振は実物があれば簡単に見つけることができます。先ほど説明した通り、大きく揺れている、振動が伝わる部分というのは共振している可能性を秘めています。
 

大きく揺れる、または振動が伝わるというのは振動源であるということです。
回転体があればそこが振動源となります。
 

振動源は設計者ならばおおよそ見当が付きますので、その部分に加速度ピックアップセンサを付けて測定します。それと同時に問題となる周波数帯域も把握しておきます。
 

実際に計測では、周波数帯域と振動レベルが計測できます。振動源となる部分を測定し、その周波数帯域と問題となる周波数帯域が合致すれば、その場所が共振の原因箇所となっていると判断します。
 

1つ注意点としては、振動のモードを知る際は、XYZの3方向すべて測定することです。1方向だけで判断してしまうと誤った結果に繋がります。3方向を測定して一番大きな振動レベルをその部位の代表値としてください。
 

振動源には必ずXYZ方向どれかで振動レベルが大きいベクトルを持っています。振動レベルが大きいベクトルとは、言い換えれば、力が加わる方向です。力が加わる方向によってその構造体の持つ変形モードが決まるため、3方向を計測し、振動レベルとどのベクトルなのか方向を確認します。
 

Step2:設計段階で計算して見つける

本来この設計段階で共振を発見させることに意味があります。実機で確認するためには、試作機を1台作らなければならないわけで、そこには制作費が発生します。事前に設計段階でこの共振を回避できれば言うことはないですよね。
 
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ここで調べたいのは、構造体の固有振動と回転体の振動数です。この2つの共振を防ぎたいわけです。回転体の振動は回転数が分かれば、簡単に周波数が求められます。問題は、構造体の固有振動数となります。
 

固有振動は物体の形状とか、重さ、ばね定数で一般的には計算できますが、手計算ではなかなか求めることができません。物体の固有振動数は私みたいな凡人には到底計算できないレベルです。なので、構造体の固有振動数を求めるためには、3Dモデルを作って有限要素の解析モデルを活用すると良いと思います。逆に解析モデルが作れないと、設計段階では厳しいかもです。
 

解析モデルを使った解析手法の詳細はこちらの記事で解説しています。
機械設計のFEM解析とは?解析手法を事例で紹介!

ここで大事なことは、3Dの解析ソフト(モデル)は与えられた条件に対して正確に計算結果を出力するツールだということです。解析結果をそのまま鵜呑みにしてはいけないとこれまでお伝えしてきましたが、その理由は、与える条件に信頼性がないためです。
 

科学的に根拠のある数値、例えば縦弾性係数や横弾性係数といったものは確かですが、ボルト締結部のばね定数は不確かです。床面と構造体の設置条件は不確かです。解析には他にも不確かな条件がたくさんあります。なので、解析結果をもとに一度実機にて確認し、その結果を解析条件にフィードバックさせるという流れを繰り返す必要があります。それが、設計ノウハウになります。
 

このように、設計段階で共振を避ける設計手順を作れば、設計段階で共振を回避することが可能になります。
 

Step3:組立完了後、評価テストで見つかる

装置の組み立てが終わり、評価テストを行っている段階で見つけることができます。設計担当者ではなく、評価試験を行う第3者が見つけるパターンです。これは、装置の仕様が満足できていない場合に問題となりクローズアップされる事例です。
 

この段階での不具合発覚はエンジニアならば誰しも耳が痛いです。また、直接的な結果ではなく、間接的で幾十もの糸が絡まった状態なので、いきなり共振に辿り着くかは別問題として、絡まった糸を1本ずつほどいていき、共振に辿り着くパターンはあると思います。設計者から見ると悔しいですが、評価者は仕事冥利に尽きると思います。クレームという損失を客先へ出さずに済んだわけですから。
 

上記3つのアプローチで共振を見つけるプロセスはできると思います。はじめのうちはsep3で見つかるケースがほとんどかもしれません。そこで、step1に行き、step2の強化を図ることになるでしょう。最終的にstep2が確立されれば、会社にとって、開発部隊にとって大きな資産となるでしょう。これらが共振を見つける大まかな流れと注意点となります。
 

構造体の固有値を知る

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先ほど説明した通り、構造体の固有振動数を求めるためには、3Dモデルを作って有限要素の解析モデルを活用するやり方がベストだと思います。構造体の固有値は、形状、材質、重さなどで決まっており、その部品固有の振動数となります。イメージとして、大きくて重たい形状の部品は20Hzや30Hzといった低周波帯域になります。
 

構造体は一般的にばね系の固有振動数として捉え、重さとばね定数で計算できます。
 
ρ=√k/m
 
ここで、kはばね定数、mは物体の質量となります。
 
私は構造体の固有値は計算で算出したことがなく、有限要素の解析モデルを作って固有値を出していました。なので今回は、手計算での計算方法は紹介できません。頭の良い人がいれば、ぜひ教えていただきたいです。
 

3Dの解析モデルを使えば、作成した形状に対して材質を入れて、ボルトやリニアガイドといった連結部位にばね定数を入れれば、固有値が求められます。固有値と一緒に、モードもわかるので、どの部分がどの方向に弱いのかすぐにわかります。このように構造体の固有振動数を求めることができます。
 

回転体の回転周波数を計算

例えば一つの装置の中に回転体Aがあったとします。
 
回転体A:1200rpm
 
それぞれの回転周波数は60で割ると次のようになります。
 
回転体A:20Hz
 
この回転周波数と構造体の固有値を比べてみて同じ周波数帯域ならば、実際に共振が発生する可能性が高いという判断です。ですが、この段階では確定ではなく、当然ながら実機にて確認する必要があります。
 

共振を避けるための考え方

以上のステップで実際に共振を避ける設計ができるわけですが、実際に共振が発生し、この問題を解決する場合はどのようにしていくのでしょう。これはいろんなパターンが存在しますし、実際に共振が発生しても装置の仕様上問題ないケースもあるかと思います。
 

共振が発生して問題となるケースは振動にシビアな業界であり、その業界ではそもそも振動に弱い、例えば板金や製罐品などを母体となる構造体として選定していないでしょう。それらを踏まえて、抽象的な対策についてご紹介しようと思います。
 

対策を施すステップは以下になるかと思われます(参考)
※これがすべてではありませんのでご注意ください
 
1.問題となる周波数、振動の大きさとモードを把握する
 
2.理屈と現象の説明が付くか問いてみる
 
3.どの周波数まで逃がせば共振を避けれるか決める
 
4.信頼のある条件で解析し、対策を確認する
 
ここで肝とも呼べるステップが何番なのかわかりますでしょうか。もちろん、1番、2番です。
 
原因分析を間違えればその後のどんな対策も効果はありません。当たり前です。ですが、このステップを手を抜いてしまうエンジニアがたくさんいます。自分の判断の裏付けを取ろうとしないんですね。目の前の情報だけを鵜呑みにするのです。逆に1番、2番が確かなものならば、あとは自然と対策による効果が生まれます。生まれますが、特に構造体の対策はとても大変です。1つの例をご紹介します。
 

構造体の固有値が低周波の25Hz付近にあったとします。回転体の回転周波数と共振してしまい振動が大きい問題があったとします。そのとき回転体の周波数は変更できないと仮定すると、対策としては構造体の形状や剛性を強化し回転周波数との位相をずらすことになります。
 

ここで構造体の固有値をずらすという設計変更を解析を使って行っていくわけですが、私の経験上、固有値をずらすという設計変更はとても大変です。形状を1から作り直すことができれば良いのですが、実機の評価段階で振動問題がわかった場合、大抵の場合、周囲部品との取り付け関係を守らないといけないため大幅な形状変更ができないという拘束があります。
 

こういった拘束条件の中で固有値をずらすということは非常に難しいのです。先述した固有値算出の計算式ρ=√k/mを見てわかる通り、固有値を変える(上げる)ためには、バネ定数(剛性)を上げるか、質量を下げないといけないのです。いかに軽くて丈夫な構造体を設計できるかが重要となってきます。

 

やってはいけないこと

この話に限らないと思いますが、大事なことは、やり直しをなくすことです。ケアレスミス、確認ミス、計測ミス、判断ミス…パソコンの前に座ってできること以外に、実機での評価や組立、また解析といった膨大な時間を必要とする作業です。
 

特にちょっとしたケアレスミスや確認ミスで間違った情報で動いてしまった後には、膨大な損害が待っています。
 

日々やることを明確にして、間違いに気づいた時点ですぐに報告し、極力最小限の被害で済むように、細心の注意が必要です。逆に大きなミスにならない、小さなミスをたくさんして、自分の体で覚えていきましょう!
 

まとめ

いかがでしたでしょうか。かなり長文になってしまいました。共振問題は実は関係のない人には全く関係ありません!異なる業種で働いている今の自分にはほとんど問題になりません。ですが、関係のある人にとっては何としてでも解決したい問題です。
 

1.まずは共振を見つけること(問題点の顕在化)
2.次にその現象と理屈の合致検証(事象の整合性確認)
3.最後に設計手順の標準化(会社としての資産構築)
 

これらを念頭に作業を進めていければ、あなたのエンジニアとしての器も評価され、何より問題解決能力の高さをアピールできるかと思います。
 
この記事があなたの参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

福井県生まれ。地元工業大学大学院修士課程を卒業。大学卒業後は、工作機械メーカーの開発部に配属になり、10年間、設計、組立、加工、基礎評価、検査について携わり、その経験をもとにしたメカ設計のツボWEBサイトを立ち上げ。

現在は転職し、衛星、医療、産業機械、繊維機械など多くの設計に携わって、機械設計のノウハウを皆様に役立ててもらう情報発信メディアの構築を行っています。

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